ケーブルで音が変わる理由3 心理効果(プラシーボ)
ケーブルの音質変化について、ケーブルの電気的特性に続き、引き続き書いていきます。
ケーブルによって音質が変わるか、ということについての見解は、大体、次の4つの意見に分類できると思います。
1.ケーブルを変えることによる電気的特性の変化は極わずかであり、したがって音はほとんど変わらない。変わって聞こえるのは思い込みによる心理効果である。
2.ケーブルを変えることによる電気的特性の変化は極わずかであるが、それによっておこるわずかな音質の変化を敏感な人間の耳は聞き取ることができる。違いが分かる人間のために、良好な電気的特性を持ったケーブルが必要である。
3.ケーブルによって音は変化する。電気的特性が影響すると思われるため、電気的特性の向上対策を施したケーブルが望ましい。また、経験的には振動が影響するので、ケーブルには振動対策も施すべきである。
4.ケーブルの音質は機械的性質に基づく振動特性を支配的な要因として変化する。
このうち1はケーブルで音は変わらないとする意見、2~4は変わるとする意見ですが、このうち1で主張される心理効果について、検討します。
良い音のはずである等の思い込みによって音が変わって聞こえる現象は定性的には間違いなく存在しますが、それはどのくらい支配的なのでしょうか。
例えば、有名な「オーディオの科学」の管理人である志賀正幸氏はこう書いています(ただし、(専門ではない)心理学や脳科学についての問題であるので素人考えであると断ってはいます)。
したがって、超高純度の銅を使ったり、凝った構造をした、高価なケーブルに変えて音が激変したという話しはまず心理効果と見て間違いないでしよう。
では、ケーブルの音質評価はどうなっているのかというと
・ケーブルの純度と音質評価の間に相関関係がない
高純度銅を売りにしたケーブルはあるが、銅の純度が高いほど(高い純度を主張しているほど)音質評価が高いという現象は見られない。したがって、高純度の材料を使用したケーブルであることに由来する心理効果は、ほとんど働いていない。
・ケーブルの価格と音質評価の間に相関関係がない
ケーブルの音質比較において、価格の低いケーブルの評価がより価格の高いケーブルを上回ることがあり、価格が高いほど評価が高いというはっきりした相関はない。(ただし、同一メーカーの製品については価格が高いもののほうが高音質である傾向がある)。
上記の現象は、検聴者がもっている思い込みがバラバラであり、たとえば高純度銅に良いイメージを持っている者もいれば、高価格が良いと思い込む者もいることによるとの反論があるかもしれない。しかし、それぞれのケーブルの試聴結果はランダムではなく、製品により一定の傾向がある。このことから、イメージに基づく思い込みで音質評価が大きく影響されている可能性は低い。
・音質向上を期待したケーブル交換によって必ずしも音質が向上しない
ケーブルの交換は、音質が向上することを期待して行うことが多く、それによって交換した後のケーブルを期待感により高評価してしまうことが考えられる。しかし、期待してより音のよさそうなケーブルに変更したが良くならなかった、むしろ悪くなったという事例が一定数存在する(エージング不足などによりその後良くなったとしているものも心理効果に支配されなかったという意味では同様なのでこのケースに含まれる)。
・音質が変化するというイメージを持ちにくい種類のケーブルによって音が変化する
USBケーブルやLANケーブルでは、音が変化するというイメージが持ちにくい。オーディオ用USBケーブルやオーディオ用LANケーブルと一般ケーブルの比較ならば、オーディオ用のほうが高音質であるという思い込みを待ちやすいことが考えられる。しかし、このようなケーブルが登場する以前から通常のPC用ケーブル同士を使った比較試聴による音質変化が報告されている。このような比較試聴の場合、特にどのケーブルが高音質であるかの予断は持ちにくいはずであるが、それでも違いや優劣が報告されている。
以上のような状況であり、これらの例のように心理学的には説明がつくのか、大いに疑問のあるケースが多く認められます。また、ケーブルによって音質差があるとしている試聴記を実際に読むと、心理効果とはとても考えられないものがあります。
こうしたことから、ケーブルの音質変化に占める心理効果の寄与は限定的ではないかと考えています。
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コメント
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視聴による変化の報告というのは聴いた人の主観でしかないので論外です。
そもそも最低限でもデジタルデータがどういったものかを理解しているならPC用のケーブルで音が変化するなどとは絶対に思わないでしょう。
個人的にはPC以外のオーディオケーブルのぼったくり商法もオーディオの世界を衰退させる原因になりえるので許容できませんが、PC用ケーブルに関しては個人の趣味を通り越して詐欺の範疇だと考えています。
あと、人間の聴力なんてかなり適当ですし、体調・精神状態・聴力自体のコンディション等が関係してその時々で変化しています。
そして、聴く環境が完全に同じではない事も重要です。
なので、思い込みは「音が変化した」という感想に結びつく大きな要因ではありますが、それだけが要因ではないのです。
それぞれが自分の中で「音が変わった」と感じてそれが楽しさ幸せに繋がっているなら自分の中だけで楽しむのは言うまでもなく自由だと思いますが、できればそれを他者に認めてもらおう伝えてあげようと思わないほうがいいと思います。
何故ならばそうした言葉によって音楽に対して素直な感性や耳を持っている人達に余計なバイアスを与えてしまうからです。
投稿: 和哉 | 2023年10月14日 (土) 15時40分
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、思い込みのほか、体調・精神状態・聞く環境などなど、実際にスピーカーから出ている音の違いとは別のところで、音の聞こえ方に影響する要素があります。
それらについても一応考察しており、別の記事の中で触れています。
重要なことは、原因が思い込みだろうと、体調のちょっとした違いだろうと、比較視聴時のリスニングポジションのずれだろうと、音が変化して聞こえるならば、それは観測事実であるということを受け入れることだと考えています。
・ケーブルで音が変わるという事実がある。
・ケーブルの電気的特によっては音はほとんど変わらない。デジタルケーブルや電源ケーブルでは特に電気的特性で変わる根拠がない。
・思い込みによる心理効果はどうか?
・体調の違い、気分の違い、外からの雑音、外来ノイズの変化など、音が違って聞こえる要因はどうか?
これらをつぶしていくと、ケーブルに種類により実際の出音が変わっていると考えるしかありません。
投稿: よんまる | 2023年10月17日 (火) 00時51分
よんまるさんの理性的な意見は、読み易く興味深く拝見しております。
信号処理分野で研究をしていますと、通信・音響・電気それぞれの分野と常に関わっていくこととなります。
どの分野においても、ケーブルによるシステムへの影響、特に電界効果によるノイズの混入やケーブルの電気的容量それ自体が回路を形成してしまう点について、重要な要素であり、当然のこととして考慮すべきと学びます。
オーディオ分野でケーブル論争がされているのを見かけ、なぜ当然の内容がこんなに議論の対象になるのかと不思議に思っておりました。正しい環境で信号を計測すれば回答は探し出せるはずですが、ひたすら議論が堂々巡りしていました。
理由を音響(研究者)関係の方に聞くと、オーディオ分野の方には絶対関わってはならないという予想外の回答でした。なぜかと聞きますと、ほぼ議論にならず多くの場合でこちらが精神的に被害を受け、場合によっては誹謗中傷されるからだ、と嫌そうに言われました。
このブログのコメント欄でも散見されますが、ほんとうに恐ろしい分野だと思いました。
ここにきて、冷静かつ中立的な記事をやっと見つける事ができました。
お陰様で、オーディア分野の状況や考え方について、理解を深めることができました。ありがとうございます。
また決めつけを行わず、誰が相手でも冷静に回答する姿に感銘を受けました。
投稿: | 2025年1月30日 (木) 21時03分
現代の物理学の分野では、理論が発達するとともに、観察・観測によって全く新しい事実が明らかになる事例が非常に珍しくなってしまったためか、物理学や物理学を応用する工学分野の専門家には、既知の理論で予想されないことは、ありえないとする感覚の方が一定数おられるようです。しかし、自然の現象を解明するうえで、最も重要なのは観測事実です。
いわゆるケーブルによる音質変化に対する否定派の多くは、音の再生技術などはとっくの昔に完成した枯れた技術であり、既知の電気的性質による変化以外の変化を認めないようです。そして、音質変化の原因をすべて心理効果に押し込んできます。一方で、ケーブルによる音質変化の肯定派には、LCRなどの電気的性質によっては音質変化が予想されないという事実を受け入れらない方が含まれるようです。この両者による論争は非常に低レベルになりがちです。
観測事実を正しく受け入れ、科学的態度で臨めば、次の段階に進めるはずです。電気的性質による音質変化は極めて小さく、そして、心理効果による音質変もまた、限定的であるというのが現実です。
ただし、オーディオにおける音質は、観測結果(試聴結果)を他人にもわかるように表現しにくいという難点があり、観測事実を抽出し、評価するためには、一般的な測定結果とは違った難しさがあります。
投稿: よんまる | 2025年1月31日 (金) 23時10分