戸矢学 「ニギハヤヒ」
神武天皇の東征以前に畿内を治めていた王であるニギハヤヒについての書籍です。
(下の画像はamzonに掲載されているもの)
ニギハヤヒは神武天皇よりも先に畿内に天下りしていた天神とされており、神武東征の時に、神武天皇に国を譲ったことになっています。また、ニギハヤヒの子孫は物部氏となります。日本古代史上の重要人物ですが、記紀ではニギハヤヒの出身などはそれ以上説明されておらず、また、神武東征時点で国を譲ったのがニギハヤヒその人なのか、ニギハヤヒはすでに故人あり、息子のウマシマジの代の出来事であるのか、記述にばらつきがあります。
記紀では皇室の祖先の系譜は次のようになっています。
天照大神
❘
アメノオシホミミノ命
❘ ❘
ニニギノ命 天火明命
❘
ホオリノ命
(山幸彦、ヒコホホデミノ命)
(山幸彦、ヒコホホデミノ命)
❘
ウガヤフキアエズノ命
❘
神武天皇
一方で物部氏の歴史を記した書である「先代旧事本紀」ではニギハヤヒの出自は明記されています。ニギハヤヒのフルネーム(?)は「天照國照彦天火明櫛玉饒速日尊」(あまてるくにてるひこあめのほあかりくしたまにぎはやひのみこと)となっており、天照大神の息子であるアメノオシホミミ命の息子でありニニギ命の兄である天火明命と同一神であるとしています。
「先代旧事本紀」の通りであれば非常に面白いです。それならば、初期の天皇が物部氏の女性と多く結婚していることも納得できます。また、神武天皇と天照大神の間の本当のの世代数のヒントにもなりえます。そして、天照大神の子孫たちが各地に天下ったのではないかなどと想像も膨らみます。
この書籍はそんな物部氏の祖にして日本史上の重要人物であるニギハヤヒについて考察したものです。
神武天皇とニギハヤヒはどちらも天つ御璽(みしるし)をもつ天照大神の子孫ある。それなのに、先に天下っていたニギハヤヒは後から来た神武に帰順し、支配権をあっさりと譲ったように記紀には書かれています。そして、なぜそうなったのか全く説明はありません。このあたりのことについて追及してみたと筆者は言っています。
筆者である戸矢氏は神道の専門家であり、神社や神道に関する知識を生かして、論を進めようとします。読み始めると、序盤には納得できる論もいくつかありました。特に、人は死後、神となるのであって、神と書いてあるから架空なのではなく、神とは人であるという趣旨の記述にはその通りと頷首しました。また、神となった古代の重要人物たちが全国の神社でどのくらいまつられているかというデータも参考になることがあるかもしれません。
このような本であるため、「神道ではこのように考える、だから、この事象はこのように解釈できる。」といった議論を期待したくなるのですが、後半に進んでくると、これはこうだ、」これはこうだといった、根拠を示さない決めつけの羅列になっていっていしまい、全くロジックを追うことができなくなります。これでは議論になりません。
ニギハヤヒという重要人物について神道の立場から迫ったという実に興味ぶかいテーマの本書でしたが、結局は論の体をなしていないものというしかありません。筆者にはぜひより明瞭な論理展開からなる探求を期待したいところです。
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