佐治芳彦、日本国成立の謎
むかーし高校時代に読んだ本です。昭和62年発行、定価680円とあります。消費税導入前に購入しているため、消費税関連の表示はありません。
いま、パラパラと読み返してみると非常に懐かしく、かつて、こんな話があったようなあという感じです。日本の古代史についていろいろ書かれているわけですが、具体的な論証なしに想像の翼を羽ばたかせてあれこれと「お話」を作っています。
表紙にも「記紀だけでは分からない」とありますが、記紀はそのまま事実とは認められず、編者の意図により造作されたものであるという津田史観の流れを汲む思想に基づいて論じられています。記紀の記述は造作であるという考えを当然の前提とし、なぜそのような造作が行われたかという理由についてあれこれ推定しています。第2章「葦原中ツ国・日本列島が妖む謎」では中ツ国の位置・範囲や天孫が降臨した場所についてあれこれ書いた後、最後にニニギの尊の「正体」について論じています。ニニギは応神天皇の投影であり、ニニギの神話は応神天皇の新王朝を正当化するために作られたのではないかとしています。
この結論に至る論理を追ってみると、はっきりした根拠もなく・・だろうという想像が書かれ、それを前提として次の想像を積み重ねるといった作業を行っており、全体に見て、とても正しいとは思えない論理構成となっています。まずこのような推測の前提としてニニギの尊が造作されたものであるという推測があるわけであり、その推測が正しくない限りは全く成り立たない推論を重ねていますが、そこの根拠についても何も語られていません。
畿内王朝の記録が邪馬台国を黙殺している理由について、畿内王朝が何か後ろめたいあったためではないかと書いています。もちろんそれは、記紀の編者たちが邪馬台国について知っていたことが前提であって、知らなかった可能性を考えれば全く無駄な推論であるわけです。邪馬台国を知っていて隠した論拠として
「記紀」の成立は八世紀である。邪馬台国は三世紀である。その間の五世紀はある意味では謎である。だが三世紀をはるかに超える古代ー神代の神々についての記憶があるくらいなのだから、その間の五世紀分の記憶が、ブランクに成るはずがない。つまり、このブランクは意図的なものなのだ。
と書いています。ツッコミどころ満載です。まず、筆者の感覚では、神代の時代は既存の神話を寄せ集めて造作されたもので史実とは関係が無いと考えているはずであり、それならば先祖の歴史を記憶している程度とは無関係のはずですが、、これでは自己矛盾しています。また、神代の時代が三世紀よりはるか前だとどうして言えるのでしょうか。筆者は別のところで卑弥呼=天照大神説を引用していますが、卑弥呼=天照大神の場合は神代=三世紀となるはずです。卑弥呼とはどう考えても一般名詞ですが、このような一般名詞で、卑弥呼が誰なのかあっさり分かった可能性は高くはないと思われます。
銅鐸についても「記紀には銅鐸が記されていない」=「事情があって記録から抹殺した」と短絡的に推測し、さらにそこから仮説を連ねています。
神武東征についてもアールパッド(マジャール人を現在のハンガリーの地に導いたハンガリー建国の英雄)やアレキサンダーの伝記に似ているということが主張されていますが、部分的に似たところがある逸話が含まれているといっているだけで、そもそもあらすじが大きく違っている以上は意味の無い比較であるというしかありません。
以上、この本についてはまともな議論がなされているものではなく、「日本国建国の謎」などまぁ~ったく明らかにしていないわけですが、かつてはこのような説が流行していたことや先行する学説が多く引用されているので、研究史として読む分には一定の価値が認めれらるだろうと考えています。
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